2045 #7 – 大阪梅田【無料】

「…ここ、ほんまに大阪駅やんな?」

電車から降り立ったセイキは、駅舎の天井を見上げる。近未来的な宮殿を連想させる斬新なデザインの駅舎であった。
リーマンショックが起きた2009年の年明け、庶民的な街・大阪は経済的な大打撃を受けた。彼が暮らしていた街でも、景気の良さそうな近所のホルモン店が一夜にして夜逃げしてしまった。シャッターが閉まりきった個人経営店が多発した。やはり食い倒れの街だけに、飲食系にそうした姿が目立った。

様々な物価が下落する中、大阪の商魂(あきないだましい)は、むしろそこに新たな商機を見出したようであった。
リーマンショックの影響で様々な物価が下落した訳であったが、鉄鋼や建材もその例に漏れることはなかった。大阪の財界はそこに、これまで蓄え続けた資金を一気に投じたのであろう。価格割れした建材を一気に束買いする事で、ひとつの都市建設計画にとってどれだけ追い風になった事か。
2000年以降、大阪駅を構える梅田の周辺には未開拓の所有地が有り余り、ひとつの建設計画が泡のように湧いては消えてゆき、なかなか実行に移されることのないまま野ざらしにされ続けていた。しかしリーマンショックから2年後、所用で久々大阪に帰ったセイキは、余りに様変わりしてしまった梅田の街並みに驚嘆した。それまでの空き地には新しいビル群が立ち並び、環状線のレールに沿って必要以上の高さを持たなかった大阪駅の駅舎はショッピングモールや映画館を兼ね備え展望台まで冠した大宮殿になってしまっていた。この短期間の大規模工事によって生成された街の刷新は、暴落時に商機を見出した大阪の商魂の計らいを抜きには説明がつきそうになかったのである。

新たなビル群が建設されたことにより、駅周辺における市民の足の流れもすっかり変容してしまっていた。日常生活のなかで建築工程を見ていれば納得できる風景なのであろう。しかしながらセイキのようにそのプロセスを知らないままリノベートされた結果のみを見せつけられた旅人にとっては、まるで浦島太郎のような気分を味合わされることとなった。なので、駅舎の上に北から南の方角に斜めがかってすだれが垂れ下げられたようなディテールの天井に愛着を寄せて「トタン屋根」と呼ぶことによって、変化した状況を享受することにしたセイキであった。

しかしまた、時の変化がもたらしたのは何も街並みだけのことではない。そこに暮らしを営む人間模様もまた然り。セイキもまた、そうした市民のひとりであった。リーマンショック当時、彼は28歳であった。

執筆者プロフィール

佐藤誠樹
佐藤誠樹
1980年横浜出身。
大阪芸術大学卒業。
都内で貿易事務の傍ら広島・長崎・沖縄でのフィールドワークに取り組み、核時代100年記の完成を目指して編纂中。近年は西日本豪雨のボランティアとして被災地入りを重ね、その解決策となる”災害対応型道州制(仮)”の可能性について探求を重ねる。
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"Hiroshima 8.6.1945-2045"を運営。
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