2045 #9 – いつもの日常【無料】

「大事なことは、この街で学んだ」。

良くも悪くも人情の街を歩みつつ、現在に至るまでの道程を脳裏にフラッシュバックさせながら、新大阪駅から新幹線に乗車したセイキは関西を後にした。

横浜に帰り着き、翌日からまた新たな日々が始まるのであった。
いつもの日常、かけがえのない日常。

出社して昨日の事情を上司と周囲に詫び、デスクに就いたセイキは会社のパソコンを立ち上げ仕事に取り掛かる。
いつもの日常、かけがえのない日常。

仕事のやり甲斐と比例して、職務に没頭すれば時間はあっという間に過ぎ去ってゆく。
いつもの日常、かけがえのない日常。

退社後に駅前のスーパーで安く買い上げた缶ビールを空けて飲み干せば、次の日も頑張れるような気がした。
いつもの日常、かけがえのない日常。

電車に揺られ車窓に映る街のネオンに、猫型ロボットが言ってたほど変わり映えしなかった未来のいまに思い馳せたりもする。
いつもの日常、かけがえのない日常。

それでも横浜ー新橋間は明治期の近代日本において始めて鉄道が敷かれた蒸気機関車の道であったのに、そうした歴史も意に介さず日々通勤を重ねている。
いつもの日常、かけがえのない日常。

生まれ育った横浜でまもなく12,782回目の朝を迎えれば35歳の誕生日を迎える夏まであと3ヶ月。
いつもの日常、かけがえのない日常。

…しかし、セイキの脳裏には広島で目撃した光景が焼き付いていた。その印象は日々の暮らしの中で薄れゆくどころか深く刻み込まれ、強烈なインパクトを放ち続けるのであった。

「あのとき見たものは、一体何だったのだろう…」

当時を振り返り、空を見上げて遠くを眺めることが日に日に増していった。

ならば確かめるしかない。この目でもう一度、自分が見たものが一体何だったのかを、確かめるしかない。こうして彼は横浜に帰郷してわずか1ヶ月後、再度ヒロシマを目指すのであった。

いつもの日常、かけがえのない日常。

執筆者プロフィール

佐藤誠樹
佐藤誠樹
1980年横浜出身。
大阪芸術大学卒業。
都内で貿易事務の傍ら広島・長崎・沖縄でのフィールドワークに取り組み、核時代100年記の完成を目指して編纂中。近年は西日本豪雨のボランティアとして被災地入りを重ね、その解決策となる”災害対応型道州制(仮)”の可能性について探求を重ねる。
Facebookページサイト
"Hiroshima 8.6.1945-2045"を運営。
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