あなたも私も役立たず

安倍政権は、徹底して弱者を切り捨てることに快感を感じているのだろうか。生活保護バッシングの急先鋒の片山さつきが、よりによって厚生労働大臣に就任した。

あの「生産性がない」発言の杉田水脈も、そのうち入閣するんだろうなぁ、と、日本会議だらけのヘイト内閣にため息が出た。
彼らの共通点は、自分もいずれは老いて心身ともに衰えるという、ごく単純な想像力すらないことだ。自分だけはいつまでも健康で、事故にも遭わず、災害にも詐欺にも遭わないと思っているのだろうか。

産業の発達が、人々の生活を楽にすると同時に仕事もまた奪っていった流れを見れば、これからの人工知能の時代には、ごく少数のトップエリートと、少数の奴隷労働者と、大多数の「役に立たない人」だけになるという説を私は支持する。

自分の人生を思い起こしてみても、十分に想像できることだからだ。

印刷工だった私の父は、後に自営の写植(写真植字)屋を開業した。40数年前のことだ。一台350万の機械を借金で買い、返済が終わるともう一台という具合で、合計3台を揃えたところで、パソコンが登場した。

あっという間に仕事はなくなり、働き詰めの重労働の末、残ったものは何もなかった。

私が起業したときは、まだ企画書は和文タイプの店に委託していた。それが、ワープロが出てきて、パソコンが出てきて、集計解析ソフトが出てきて、500万くらいだった定量調査の仕事は50万になった。しかも一人で完結できてしまう。

会社のスタッフも、バブルの頃は十数名いたが、彼らがやっていた仕事は今ならパソコンとネットだけで十分こなせてしまう。携帯電話がなかった時代は、会社には電話番が必要だったし、ポケットベルも必要だったが、これも携帯一台で済む。

原稿もメール1本で終了。世界中のどこにいても送信できる。

ネットの発達で、一人で何でも出来る時代になるということは、それまでの仕事が全部なくなるということだ。そこで仕事を奪われた側が、今よりさらに知的な職業につくのは、ほとんど不可能だ。長年ファイリングの仕事をしていた人に、今日から開発を、なんて話にはならない。いま技術職の人だって、10年後もあなたのスキルで食べていけるかと言われたら、答えはおそらくノーだろう。

おのずと、技術の発達が膨大な「役立たず」「生産性のない人々」を量産し続けるはずだ。それほど凄まじい勢いで私達の生活環境は変わってきている。

過去を振り返れば、生産性のない者を抹殺することは、世界中で行われてきた。一番わかり易い例が、「障害者」を大量殺戮したナチスのT4作戦だ。そして、日本の優生保護法であり、ハンセン病者の生涯隔離であり、姥捨て山や子殺しだ。

オットー ヴァイト盲人作業所博物館
オットー ヴァイト盲人作業所博物館
T4作戦の中で、障害のあるユダヤ人をかくまった「オットー」
T4作戦の中で、障害のあるユダヤ人をかくまった「オットー」

そんなことにならないよう食い止め、その人の寿命がある限り、生きていて良かったと思える世の中を作るのが政治だろう。

ほとんどの人が弱者となる時代、お友達だけを優遇する政権に未だにすがりついている日本の有権者は、愚かを通り越して、もはや人類の歴史への反逆であり、犯罪だと思う。

強い者に付き従い、異質な他者を排除すれば生き残れると思っているとしたら、それは絶対にない、と断言しておこう。

ブラシの機械
ブラシの機械

アイキャッチ画像:アウシュビッツ収奪された障碍者の補助具・そのまま、ガス室へ

(マスコミ市民’18年11月号より転載)

執筆者プロフィール

辛淑玉
辛淑玉
1959年東京生まれ。在日三世。
人材育成技術研究所所長。
企業内研修、インストラクターの養成 などを行うかたわら、テレビ出演、執筆、 講演も多数こなす。
2003年に第15回多 田謡子反権力人権賞受賞。2013年エイボン女性賞受賞。
著書に、『怒りの方法』『悪あがきのすすめ』(ともに岩波新書)、『差別と日本人』(角 川テーマ21)、『せっちゃんのごちそう』(NHK出版)など多数。

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