Lwp65 – 書評:フランス・ドゥ・ヴァール(柴田裕之訳)『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』紀伊國屋書店。【無料】

他者を思いやる心とは、生物学的に先験的に備わったものなのか、それとも後験的な教育の成果なのだろうか--。長年、チンパンジーとボノボを研究してきた著者は、彼らの生活に道徳性の萌芽を発見する。本書は人間に固有な現象とみられる道徳の起源を動物から探るという大胆な試みだが、叙述は説得力に富んでいる。

ボノボやチンパンジーといった霊長類は、他者への気遣いだけでなく、本来ならば関わらなくても済むような仲間同士の揉めごとの仲裁など、自らのコミュニティーの調和にも配慮する。本書を読むと、人間以外の動物がいかに共感能力にすぐれ、欲望を制御し、利他行動をとるのかに驚かされる。それと対照的なのが、道徳的な生き物といわれる人間の不道徳な現在であろう。

人類と他の霊長類の道徳性の強い連続性は、共感能力が理性や啓示によって育まれたものでないことを示唆する。本書の原題は、「ボノボと無神論者」である。宗教は道徳の源泉ではなく、道徳的感情をもとに発達してきたのである。本書は宗教の役割を否定するものではない。様々な局面における個々の道徳性の発揮を普遍的基準へと高めてきたのが宗教であるからだ。

本書は人間という存在の自己理解を深めるうえで欠かせない一冊である。

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執筆者プロフィール

氏家法雄
氏家法雄アカデミズム底辺で生きるヘタレ神学研究者
氏家法雄 アカデミズム底辺で生きるヘタレ神学研究者。1972年香川県生まれ。慶應義塾大学文学部文学科(ドイツ文学)卒。立教大学大学院文学研究科組織神学専攻後期博士課程単位取得満期退学。鈴木範久に師事。キリスト教学、近代日本キリスト教思想史、宗教間対話基礎論を専攻。元(財)東洋哲学研究所委嘱研究員。千葉敬愛短期大学(倫理学)、創価女子短期大学(哲学)、創価大学通信教育部にて元非常勤講師。論文には「姉崎正治の宗教学とその変貌」、「吉野作造の『神の国』観」、「吉満義彦の人間主義論」など。ええと「うじいえ」ではなく「うじけ」です。

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