2045 #6 – 瀬戸内の車窓【無料】

セイキが乗車した電車が広島駅を出発する。
東へ3駅進むと海田市(かいたいち)駅に到着し、ここから内陸の山合いを進む山陽線と、瀬戸内海の海岸に沿って進む呉線にレールが分かれる。いまだ広島県内の土地勘のなかった彼は、最短距離で大阪に辿り着ける山陽線の電車に乗っていた。車両が進む両脇の車窓からは、のどかな中国地方の山々が延々と続く。

呉線と再び合流する三原駅に辿り着き、その次の糸崎駅で乗り換えて更に東へ進むと、尾道駅に辿り着くまで車両の進行方向の右手には瀬戸内海の景色が広がる。水平線の彼方にはコンテナ船が渡航しているのも見える。広島方面の港を目指しているのだろうか、船舶の行方はわからない。思ったよりも大型船の往来が活発な瀬戸内の景色が、横浜育ちのセイキに意外性をもって映り込む。尾道駅を通過すると、海に面して数々のクレーンが居並ぶ光景が続く。地元で古くから続いている造船所であった。

横浜でも開港間もない明治期、船から陸へ荷揚げをする際に荒波が足場を不安定にさせた結果、せっかく運んだ荷物を海中へ落としてしまう事故が相次いだという。海の男たちはその対策として、外海の荒波を遮断して安定した水場で船を着岸させる波止場を設けることにした。横浜でもその形状から「象の鼻」と親しまれた跡地は現在パーク化され、街の憩いの場へとリノベートされている。
瀬戸内の一帯も地理的に同じ事が言えるのかもしれない。太平洋の大海原を四国が隔てたおかげで、波の穏やかな利点を活かした瀬戸内では船舶の建造やメンテナンスに充てがわれる造船所が居並ぶ光景が生まれた。電車もしばらく進むと大手グループの屋号を冠した造船所まで現れた。

ふと、セイキの頭の中によぎったのは戦国時代に毛利氏の元で活躍した村上水軍であった。当時の中国地方を治めていた大内氏の中で内乱が起こると、毛利氏が頭角をあらわしてゆく。厳島合戦で陶氏と対峙した最初は劣勢であったものの、村上水軍を味方につけたことで形勢は逆転。毛利家は新たな中国地方の雄となった。
今でこそ当時の名残を伝え聞くのは難しいが、この地に根付いた村上水軍のDNAは現代の造船業に姿かたちを変えて継承されているようにも見えた。

その後、織田信長が天下統一に王手をかけた中国攻めを羽柴秀吉に命じるも、本能寺の変において信長は入滅。その報せを知った秀吉は毛利方に内情を知られないように講和をもって戦をおさめ、10日掛かりで急ぎ近畿へと引き返した。かの有名な「中国大返し」である。

その当時の秀吉が辿ったであろう道をいま同じ方角へと向かっているのだと実感すると、セイキは何とも不思議な気分になった。秀吉もまたどんな思いで道を急いだ事であろうか。農民上がりの自身に実力主義で帝王学を授けてくれた信長は、ある意味で厳父のような存在だったのかもしれない。時は戦国時代、この地は修羅の庭だったとしても、その関係性は単なる主従関係をも超越したものになっていたのではなかろうか。

師弟に喩えては言い過ぎか--。

そんな歴史ロマンに想いを馳せながら電車に揺られ続けていると福山駅を通過していた。姫路駅で乗り換えると、大学時代から馴れ親しんだ懐かしい関西の情緒が見え隠れし始めた。元町・三宮まで来れば、もはや彼のテリトリーである。こうして淀川の鉄橋を渡った電車は、間もなく大阪駅に到着する。

執筆者プロフィール

佐藤誠樹
佐藤誠樹
1980年横浜出身。
大阪芸術大学卒業。
都内で貿易事務の傍ら広島・長崎・沖縄でのフィールドワークに取り組み、核時代100年記の完成を目指して編纂中。近年は西日本豪雨のボランティアとして被災地入りを重ね、その解決策となる”災害対応型道州制(仮)”の可能性について探求を重ねる。
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"Hiroshima 8.6.1945-2045"を運営。
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