2045 #12 – ライセンス【無料】

こうしてWEB上のフリーツールを用いて目的に適った円状デザインを地図上に描き出す手段を見出したセイキは、次のステップに進む。幸いにして彼は、心許せる仲間のひとりであったデザイナー職人のセンパイが居たことから、自身の構想を打ち明けてビジュアルデザインの制作協力を無償で賜る機会を得ていた。三重奏の円を描写したフリーツールMAPと同倍率の地図画像を用意することにより、その円形をトレースすれば広島の原爆被害規模を現在の都市に投影できる公算であった。その為にも先ずは、軸となる広島の地図を完成させなければならない。

しかし、ここで最初の難関に直面する。セイキは学生時代、芸術大学で表現技法を学ぶ中で著作権のもつ社会的仕組みについて強く惹かれる機会があった。出席日数が至らず結局その講義の単位を修得する事はなかったものの、作品表現後に発生するライセンスを保有する事で得られる経済的恩恵やポリシーの構造に関心を寄せてまじまじと眺めていた。当時のキャンパスでは表現の自由ばかりを謳歌し追い求める青臭い学友が大多数だった中で、将来何者になるかも判別のつかない内から価値表現の発信に伴う表現者としての”責任感”について考察を深めたいと試みる一風変わった芸大生でもあった。そうした現実性と向き合う姿勢の中で、それはいっそう興味深く映ったのであった。
…幾星霜を経て物語はまた現代に戻る。
こうした経緯からライセンス絡みにこと敏感なアンテナを張り巡らし、サイト作成に活かせるフリーツールを探し集める中で彼は思い知らされるのであった。

「…地図にも著作権あるのかよ」
これは意外な盲点だった。絵画や写真といった個人表現のまさに対極に位置する、むしろ日用的な公共アイテムとしての印象すら色濃い、あの地図にも著作権は存在していたのである。
WEBを開けば常にいつでも閲覧できる精度の高いGoogle Mapをこのとき使用候補に挙げていたものの、サイトポリシーを確認すると大手地図会社がライセンスに関与していた事や無断の転載使用が確かに禁止されていた。
企画は一旦暗礁に乗り上げるかに見られたが、セイキが助けを得たのはスティーブ・ジョブズ(1955-2011)の軌跡であった。言わずと知られるiPhoneの発明家であり、彼にまつわる伝記は社会現象を巻き起こし映画化されたりもした。セイキもまた彼の合理体系的なプレゼン・ロジックにインスパイアされたひとりであった。

スティーブ・ジョブズも生前、iPhoneを初リリースした際に搭載していた地図機能はGoogle-MAPであったが、技術的な互換性または使用料の問題か、彼もまた何かしらのかたちでライセンスの壁に直面した様である。何度目かのリニューアルを重ねたiPhoneの新バージョンにおけるプレゼンで彼は、Googleに変わる新たな地図機能を搭載することを表明した。ではその時にアナウンスされた地図機能は何だったであろうか。セイキが当時を紐解くと、その手掛かりとなって現れたのが”OpenStreetMap(OSM)”であった。
https://openstreetmap.jp

これはWEBユーザーの有志によって、自身の住まう場所や興味ある地域の地図がWEB上に描き出された蓄積によって、制度の高い地図が閲覧できるサイトであった。しかも、基本的にフリーライセンスとなっており、条件を満たせば誰でも自由に二次使用することが適うツールとなっていた。

こうしてセイキは、広島に投下された原子爆弾の被害再現MAP第1弾を完成する事が出来た。原爆資料館の図録に掲載されたそれと比較すると細かな精度面では更なる改善の余地は残っていたものの、目前に迫った2015年8月6日の掲載に向けて一旦これで打って出る事にした。やがてこの地図は、毎月6日にヒロシマの月命日を追悼する掲載の第一歩として使用しゆく事となる。

執筆者プロフィール

佐藤誠樹
佐藤誠樹
1980年横浜出身。
大阪芸術大学卒業。
都内で貿易事務の傍ら広島・長崎・沖縄でのフィールドワークに取り組み、核時代100年記の完成を目指して編纂中。近年は西日本豪雨のボランティアとして被災地入りを重ね、その解決策となる”災害対応型道州制(仮)”の可能性について探求を重ねる。
Facebookページサイト
"Hiroshima 8.6.1945-2045"を運営。
日本語:
https://facebook.com/hiroshima8619452045jp
English:
https://facebook.com/hiroshima8619452045usa

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