笑いものの国でいいのか

カナダのトルドー首相が安倍との会見で「ジャパン」を「チャイナ」と言い間違え、それなのに安倍はニコニコと握手したという、英文の記事が流れてきた。

カナダが二大経済大国の米国と中国の板挟みからなんとか舵をとろうと必死だったこの数ヶ月を見れば、日本など意識の中にも入らない国に転落したということを世界中に知らしめた珍事だった。

安倍は「南カルフォルニア大学」に留学したと称する経歴の持ち主だ。中学英語程度でもジャパンとチャイナの違いくらいわかりそうなものなのに訂正もせずに握手をしたというのは、情けなさを通り越して寂しさがこみ上げてくる。

米国のトランプ大統領との撮影のとき、安倍はトランプに近づいてレッドカーペットに乗ろうとしたが、「ストップ」とトランプから一喝されて、カーペットからはみ出たままの姿が撮影された。その姿に、マッカーサーと昭和天皇の姿がダブった。

天皇が人々の命を思って米国と交渉したというデマを長い間信じ込まされていたが、実際には、ただただ自身の命乞いのためにマッカーサーのご機嫌を取っただけなのだ。安倍も、きちんとその伝統を受け継いでいる。

ヨーロッパで日本研究の専門家たちと一緒にいると、彼らの政治分析の緻密さと高度さに驚かされることが多い。先日も、党員数が減少している公明党の研究や、幸福実現党とアメリカの極右とのつながり、また政権の補完政党としてのその役割、さらには、戦後の自民党による右翼の利用と大阪維新の立ち位置など、日本ではなかなか知ることのできない研究を目にした。

厳しい言い方になるが、日本がどのように壊れていくのかをじっくり観察されていると言うべきだろう。仮にも一度は先進国の仲間入りをした国が、「日本すごい」のフェイクに取りすがって目をふさいでいる様は、日本人にとっては悲劇だろうが、外から見れば喜劇なのだ。

日本企業が中国の下請けとなって久しいことを知る日本人は少ない。ヨーロッパは、中国の5G戦略に乗り遅れまいと、いかに中国と連携するかに必死だ。5Gでは、海底ケーブルをはじめ、インフラも技術者もすでにファーウェイ(華為)が押さえ、アメリカは今後百年たっても対抗できないだろうと言われている。今でこそ、アマゾン、グーグル、Facebookなどで市場を席巻している米国だが、例えてみれば、それは家電の世界の話であって、スマホを使う時代になれば状況は一変する。それほどのインパクトが5Gにはある。

マーケットの拡大、新規産業の広がりや乗数効果は、私たちの生活を激変させるだろう。それは、経済的インパクトだけでなく軍事的なインパクトでもあるのだ。

そんな生き馬の眼を抜くような熾烈な競争の中で日本がやっていることといえば、「原発を売ること」という、一部の人たちの利権のために世界の流れに逆行することだけだ。米国による経済制裁を解いてなんとか人々を食わせようとしている北朝鮮のほうが、まだ国家としてはまともなのだ。

ドイツに長く住んでいる日本人が、「かつてはソニー、東芝、日立の建物がそびえ立っていて、日本製品をわれ先に買おうとするドイツ人の姿があった。でもいまはサムスンとファーウェイしか目に入らない。それが寂しい」と語っていたが、私の住むエリアでは、寂れた東芝の看板をつけた建物のすぐ隣に、その何十倍もの敷地とガラス張りの、目を見張るような近代的な建物があって、それがファーウェイの支社なのだ。

勝負はとっくについている。

だのに、在独日本人の少なからぬ数の人が、中国人に間違われると怒って必死で否定する。そのメンタリティこそがすべての障害なのだ。

今の日本は、戦時中で言えばガダルカナルかインパール作戦のような立ち位置にいると言っていいだろう。

日本国民が、日本政府の手で根こそぎ財産を奪われる日はそう遠くない。そう、希望ある未来も奪われるということだ。その悲劇は、貧しいものから順に、中産階級にまで一気に押し寄せるだろう。

「国」は人々を守らない。守らせるためには、闘わなければならない。

その覚悟もなく、令和バンザイをやって新しい時代が来るとか言っている人たちは、歴史と未来に対する責任を放棄したと言えるだろう。その罪は深い。

 

写真:
ドイツの本屋の店先のオブジェ。
トランプを揶揄している作品

 

(マスコミ市民’19年6月号より転載)

執筆者プロフィール

辛淑玉
辛淑玉
1959年東京生まれ。在日三世。
人材育成技術研究所所長。
企業内研修、インストラクターの養成 などを行うかたわら、テレビ出演、執筆、 講演も多数こなす。
2003年に第15回多 田謡子反権力人権賞受賞。2013年エイボン女性賞受賞。
著書に、『怒りの方法』『悪あがきのすすめ』(ともに岩波新書)、『差別と日本人』(角 川テーマ21)、『せっちゃんのごちそう』(NHK出版)など多数。

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